研究概要 |
本年度は,研究代表者の提案するウェーブレット係数の重心推移法(Center-of-Balance Transition Method)に基づく黙声発声の表面筋電信号の特徴分析を研究の中心に置いた. 本研究の黙声認識が対象とする自然な発声では,絶えず口唇形状を変化させつつ行われるため,筋電信号の強弱に定常性のある特徴というものはあまり期待できない.さらに,黙声発声時のアクセントの違いが筋電信号の強弱の違いとして現れるため,連続黙声認識における発声変化位置の特定を信号強度に基づいて行うことは極めて困難である.信号強度の情報自体は黙声の認識のために重要な情報であるが,先に連続黙声のセグメンテーションを完了していなければ,適切な活用は難しい.特に子音は短時間の変化であるため,セグメンテーションによって変化位置の同定ができていなければ認識は不可能に近い. 重心推移法は,筋電信号の強度に対して鈍感であるような信号特徴の表現手法である.連続2母音を発生した際の表面筋電信号に対して重心推移の特徴を活用したセグメンテーションを試みた結果,発声開始位置,母音間の変化位置,発声修了位置の同定を80%強の精度で行うことができ,重心推移法の有効性を示すことに成功した. また,重心推移の特徴を調べる過程で,少なくとも一部の黙声子音については,現状の黙声母音向けの計測位置でも特徴が観測されることを確認した.当初は子音のための計測位置の追加も計画していたが,計測位置の増加は利便性の悪化につながってしまうため,まずは現在の計測位置でどれだけの黙声子音の判別が可能かを追求することとし,翌年度への継続課題とした. こうした研究と同時に,手軽でコンパクトに電極を装着できるようにするための電極と筋電アンプの制作を試みた.未だ完成には至っていないが,翌年度中には実験に用いることができる程度には仕上げることを目指して進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無理に口唇形状を形作らない自然な発声では個々の音素において安定した特徴を持たずに常に推移を続けるため,黙声の発声変化位置をいかにしてとらえるかが連続黙声認識の重要な課題となっていた.研究代表者が提案する重心推移法では,黙声発声時の発声変化位置を他の手法よりも明確にとらえることに成功しており,連続黙声認識の実現へ向けてのブレイクスルーの一つとなったと考える.
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今後の研究の推進方策 |
ウェーブレット係数の重心推移には,まだ十分に抽出・表現できていない特徴があると考えているため,更なる特徴量化の研究を進める.その成果を踏まえつつ,連続黙声における発声変化位置の検出精度の向上と,その結果に基づく連続黙声認識の実現とを目指す.認識には,切り出された個々の区間内の特徴に基づく認識と,変化位置として同定された箇所での推移の特徴に基づく認識とを試みたいと考えている.
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