研究概要 |
人が空間を移動するとき,時々刻々変化する膨大な情報の中から何を選択的に取得しているか,またその時その人は空間移動をどのように理解しているか,そしてその取得情報と空間移動理解とはどのように関係しているか,ということを研究するための基礎的な方法論を確立し,基本的な関係を明らかにした.つまり,人が空間移動を行う実験の構成法と運用法,その実験から人が取得している外界情報のデータ化手法,およびその空間移動の理解のデータ化手法,そして両データの相関解析の方法をそれぞれ確立し,実際に全体を通して実施した.さらにこの一連の実験により,移動時における情報取得の違いが空間移動理解に与える影響について明らかにした. 実験については,初年度は実験の安全性とデータの再現性を重視し,予め記録した移動のビデオ映像を用いた実験とした.そして取得情報のデータ化は,視覚情報の再認テストを中心に手法を確立した.また,空間移動理解のデータ化は,方向認識テストと地図再生テストを中心に確立した.従来の空間移動理解の研究が主観的で定性的なデータに基づくものが多かったのに対し,これらのデータは客観的で定量的なものである.このため,相関解析には多変量解析やその他の非線形な数値解析の手法を駆使することが可能となった. この解析の結果,空間移動理解能力の高い人は,ランドマークよりも交差点などの空間的特徴に注目していることや,移動時の取得情報が空間全体の中での位置と関係づけて認識されていることなどが分かった.これらの事実は,移動者本人も気づいていない無意識の能力,すなわち暗黙知の特性を表しており,上述の研究方法により明らかになったものである.
|