隠れマルコフ鎖を推定し得る神経回路網の構築を目的とする。回路網の主要部はベイズ判別関数の学習が可能な三層神経回路網である。隠れマルコフ鎖は、複数の状態の連鎖であるが、状態そのものは観測されず、推定の対象である。各状態において生成される信号をもとにその事前確率を求めて、各時点における状態をベイズ推定する。事前確率は信号の時系列から計算される。 ベイズ判別関数は状態ごとに異なるので、この推定には複数のベイズ判別関数が必要であり、それらが神経回路網により学習されなければならない。それには、通常、複数の神経回路網が必要であるが、それらのベイズ判別関数がある意味で相互に類似している場合、単一の神経回路網に複数の素子を装備して、各素子への接続を切り替えると、各ベイズ判別関数が近似できる場合がある。 研究は、目的に沿うベイズ神経回路網の構築と、それを用いての隠れマルコフ鎖の推定の二段階に分かれるが、平成22年度は、ベイズ判別関数を学習し得る神経回路網の構築が主たる研究内容となった。特に単一の神経回路網に複数のベイズ判別関数を学習せしめる研究に多くを費やした。研究の途中であるが、一応の成果が得られてすでに報告した(11項参照)。 他方、この結果の応用の研究も併行して進めた。われわれの神経回路網はマハラノビス判別関数の学習し得ること、しかも、われわれのアルゴリズムを応用すると、単一の神経回路網による複数のマハラノビス判別関数の学習が可能であることに気付いた。その結果は平成23年度の国際学会で発表する。論文はすでに受理されて、印刷中である。
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