本研究は、流体の乱流熱対流をロータの回転運動としてモデル化するカオスガスタービンの力学系を明らかにし、工学的応用方法を開発することを目的とする。研究期間の3年間において、熱対流の乱流化過程に関する物理モデルであるLorenz方程式とカオスガスタービンが従う運動方程式との関連を理論的に解明し、独自に設計、試作したカオスガスタービンを用いた実験を通して理論の妥当性を検証した上で、カオスガスタービン力学系のカオス通信への応用、および、発電への応用可能性を明らかにする計画である。平成22年度はカオスガスタービンの運動方程式の妥当性を検証した。その結果、ガスタービン方程式はローレンツ方程式を2N+1次元の多次元に拡張した力学系に等価であるという当初のモデルの正しさが実証された。このモデルでは、N個のローレンツ系が流体の速度場に対応する角速度変数を共有しながらstar型ネットワークを構成する。実際にガスタービンを試作し、ロータの回転運動を動画像として観測した。動画像から33msecごとに求められた角速度変動を運動方程式の数値解と比較し、概ね一致を確認した。ロータは頻繁かつ不規則に回転方向を変える。このような運動は高レイリー数の乱流対流において実際に観測される「平均風(mean wind)」に対応する可能性を発見した。この推測を検証するために統計解析を遂行中である。ガスタービン方程式のネットワーク構造はカオスマスキングによる秘話通信のセキュリティを格段に向上させる効果があることを発見し、カオス通信に関する特許発明として特許出願した。
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