確率的情報処理においては、目的に応じた「仮想データ」を生成する技術が重要である。本研究では乱数を用いたアルゴリズムの一種であるマルチカノニカルモンテカルロ法に基いて、さまざまな仮想データ生成の問題に対して適用できる統一的で強力な手法を開発・検証することを目指す。 本年度は、まず、仮想データ生成問題のうち、サロゲートデータの生成問題についてマルチカノニカルモンテカルロ法を適用することを試みた。具体的には、連続変数の時系列データに対して (1)各時刻での値の確率分布を保存する(2)複数の時間差の2次相関の値が与えられた精度εで実際のデータに一致する、の2つの条件をみたす仮想データの集合をマルチカノニカル法で生成することに成功した。提案手法は、最適化法に基づく既存の手法と比較して、(a)与えられた集合からの一様なサンプリングが原理的に可能、(b)εの関数として仮想データの相対確率がわかる、という2点で優れている。この結果は、すぐ下で述べるものを含めて2つの研究会で発表した。 そのほか、「仮想データ生成」のそれ以外の分野、とくに「プレイメージ生成」と「データ秘匿」について、それぞれの応用分野の研究者を招聘して、研究集会「仮想データ生成とその周辺:逆像問題、サロゲーション、秘匿」を行い、今後の研究に必要な情報収集と討論を行った。見かけ上全く異なる分野に共通の問題意識があることが確認でき、「仮想データ生成」というコンセプトの有用性が確認できた。
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