研究概要 |
本研究の目的は,利用者の情報探索行動の履歴に着目し,これを構造化し共有するためのシステムの実現である.本年度は,1)利用者の履歴活用行動を明らかにする利用者実験,2)それを利用した履歴提示インタフェースの実装,3)履歴の共有方法の検討,を行った. 1)では,履歴を木構造として視覚化するプロトタイプシステムを実装し,このシステムで発話思考法を用いた検索実験を行なった.その結果,ユーザが履歴を活用するのは,過去に閲覧したページや結果一覧を再度見直す場合であり,特に,履歴を可視化しておくことによって,直前よりも過去の検索結果を振り返って利用する行動が起ることが明らかになった.これは,過去の検索行動を利用するには従来のシステムでは不十分であることを示す結果と言える. 2)では1)をもとにプロトタイプシステムを改良し,自然に履歴を振り返ることが可能な履歴提示インタフェースを開発・実装した.本システムは,Web閲覧時にも常に履歴を視野に入れることで履歴の構造の記憶と理解を促すものである.実験のために,画面を切り替えて履歴を閲覧するシステムを実装し比較した結果,提案システムの方がより過去の履歴にアクセスする傾向があることを示すことができた.3)では,利用者の知識構造や好みの推測とそれに基づいた推薦手法の研究を行なった.国文学研究を例に検索行動を分析したところ,既に権威付けられた古典籍の文献学的分類を辿って探索が行なわれていた.履歴の共有にはこのような共通の知識構造の存在が重要になる.一方,読書履歴の共有では,レビューの長さの好みや読んだ書籍の分類に従って,次の読書行動の選択が行なわれていることが明らかになった.履歴を共有して適切な行動を支援するためには,共通の知識構造の構築と個人の嗜好情報を活用した推薦技術が必要になると言える.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
利用者実験に利用した履歴の振り返りを促すシステムの実装に時間がかかったことが,遅れた原因である.利用者実験をするためには自然な検索を保障しなければならず,グラフィカルなインタフェースでこれを実現することは思いのほか手間取った.ただし,その分,インタフェース設計のノウハウが蓄積されたため,今後,共有システムを実装する際には活かせるものと思う.
|
今後の研究の推進方策 |
現在,共有システムの検討が遅れており,最終年度に向けて評価を行なうためには,履歴共有システムの早期の実現が課題である.本年度にシステム化のための共有手法の検討を行なった結果,これまで想定していた「文脈」という曖昧な概念をより精密に定義しなければならないことが明らかとなった.この部分の検討を最終年度は早々に行なう必要があり,それを済ませた後に,共有システムの実装・評価に進む方針である.
|