研究課題/領域番号 |
22500236
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
福田 智子 同志社大学, 文化情報学部, 准教授 (50363388)
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キーワード | 国文学 / 情報システム / 古今和歌六帖 / 源氏物語 / 和歌 / 校本 / 本文異同 / 表記 |
研究概要 |
独自に開発したデジタル校本システムを用いて、『古今和歌六帖』と『源氏物語』を対象とする伝本と表現に関する研究をおこなった。 『古今和歌六帖』については、主要伝本6本の本文や書き入れについて、竹田正幸氏作成の和歌用デジタル校本システムを用いて異文を分析した上で、深川大路氏が提案するプログラミング言語を利用して、さらに3本の伝本を視野に入れ、漢字表記に着目した文字列解析をおこなった。その結果、田林義信氏旧蔵本書き入れの特異性を見出し、また、寛文九年版本のもとになったであろう幻の伝本が、桂宮本・永青文庫本などの禁裏本の表記と共通性を有する可能性を指摘することができた。さらに、文字列解析ツールe-CSA"efficient character string analyzer"(前掲竹田氏作成)を用いた出典未詳歌の注釈作業も継続しておこない、<研究ノート>として2度にわたり公表した。 『源氏物語』については、坂田桂一氏作成の散文用校本作成支援ツールを用いて校本を作成し、その上で、補助的に、SplitsTreeによる分析をおこなうという、一連の伝本研究に着手した。『CD-ROM角川古典大観 源氏物語』に収録されている大島本・陽明文庫本・保坂本・尾州家河内本の翻字テキストの準備は、今年度、五十四帖すべてを完了した。そのうち十三帖については、それら4本の翻字校本が完成している。また、初音・梅枝巻の二帖については、飯島本の影印から翻字テキストを作成し、合計5本の伝本を対象に、先に述べた一連の作業を終えた。また、宿木巻は、大きな異文を有する伝本が複数存するため、上記CD-ROMに収録された4本に、三条西家本・高松宮家本・阿里莫本・桃園文庫本の4本を加え、総計8本の翻字校本を作成した。校本作成支援ツールを用いた伝本研究の手順は、これでほぼ定まったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までは、文字列データ解析システムの構築に重点を置き、データ作成やシステムの改良をおこなってきた。その結果、『古今和歌六帖』『源氏物語』ともに、ほぼ当初の計画通りに、文字列データ解析システムを用いた研究手法の方向性を定めることができた。他の科学研究費助成事業2件と連携することで、『古今和歌六帖』の電子テキストの提供を受け、また、散文用校本作成支援ツールを『石清水物語』の校本作成にも試用して、コンピュータプログラムのコーディング上の誤りをチェックする協力態勢を得たことも、本研究を進展させた。ただし、前者のテキストは、タグ付け規則の変更にかなり手間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
研究の重点を、文字列データ解析システムの開発・改良から、それらを用いた伝本・表現の文学研究に移す。 『古今和歌六帖』については、重要な伝本を数本付加することは重要だが、システム運用の技術的な面では、伝本の多さはそれほど問題にならないことがわかっている。そこで、分析する伝本を増やすことよりもむしろ、現在、使用可能なテキストの解析に努める。伝本については漢字の使用状況の把握、表現については出典未詳歌を中心とする注釈をおこなう。 『源氏物語』については、まず、全五十四帖の大島本・陽明文庫本・保坂本・尾州家河内本の翻字本文の校本を完成させる。その上で、異文の多い伝本が現存する巻については、とくに伝本を増やして校本を作成する。そして、研究を要すると考えられる巻を厳選し、諸本の位置付けと表現に関する研究をおこなう。 なお、和歌と物語とをつなぐ引き歌の発見も、これらの研究と並行しておこなっていく。
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