本研究の目的は、途上国の論文生産を、研究者の国際ネットワーキングを中心にマクロ計量分析を通じて明らかにすることである。初年度である平成22年度はパイロットスタディとして、一般的な評価が高いNatureとScienceの学術論文誌2誌を選びトムソンサイエンティフィック社のデータベースを用いて国際共著関係や著者の移動状況を分析した。しかしこれら分析では、モデルの決定係数が低く、説明変数の係数の符号が期待とは異なる結果も示された。そこで2ヶ国間の共著論文数や研究者の移動回数をカウントデータと捉えて、データの特性から0過剰モデルであるzero inflated negative binominal model等を採用したところ同推定方法の適切さを示す統計結果が得られたことから、これらの結果を論文として取りまとめた。 また、化学分野の学術論文の中からインパクトファクターの高い18論文誌を選び1985年から2005年までの20年間のおおよそ25万論文のデータを、論文単位および論文の別刷り送付先住所(Reprint Address)に記載された著者単位で整備した。これにより、パイロットスタディよりも水準の多様な論文を分析することが可能となった。また国際共著論文の質の高さと国際共著に携わる研究者の生産性の高さが正の関係を持つことが近年指摘されていることから、このような関係をより詳細に分析するために、著者単位のデータベースに被引用数の集計結果を付与した。国際共著論文の質の高さは研究開発の国際化を促す根拠となることから、その背景を詳細に分析することは意義があると考えられる。さらにNatureとScienceに比べて化学雑誌に論文を発表する研究者の属する国はより研究開発水準が多様であることから、研究開発水準が異なる場合の国際共同研究や国際共著に関する文献の調査を実施した。このような文献調査を通じて、研究開発水準がより多様な国を含めて分析する際のモデル開発が可能となると考えられる。
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