本年度は、昨年度までに作成した2つのデータセット(ネイチャーとサイエンス論文を基にした物と、化学論文を基にした物)を使用し、日本の施策に対する示唆を導くべく、日本と米英等を対象に国際共著に関する国際比較を行った。この結果、日本は他の主要国と同様に論文数の多い研究者が国際共著に参加するが、他方で注目度の高い研究者の参加は確認されなかった。国際共著と研究者のキャリアとの関連は今後の課題として残るが、日本においても国際共著率が高い理由として業績の高い研究者の参加が示されたことは、研究力向上に向けた施策に繋がると考えられる。 さらに本年度は、文化が多様である場合に新たな知識が創造されるという理論モデルと、近年の研究活動における国際化に着目し、文化多様性と論文の注目度との関係を定量的に分析した。研究活動の文化多様性は、2つの側面に顕著である。1つは1カ国の研究者に占める外国人の存在であり、2つめは国際共著である。最新のデータを用いて分析した結果、次のような3つの結論が導かれた。1点目は、1カ国のみによって発表された論文の注目度は、研究者の文化多様性(外国人比率)と正の相関を持つことである。研究者の外国人比率は研究者の国際移動の結果である。そこで2点目として、研究者の国際移動が何によって説明されるのか分析したところ、留学生および研究者の集積に関係するが、受入国の文化多様性とは関係しないことが示された。最後に、国際共著論文は国数との相関が示されたが、言語の一致や距離の遠さとは関係しないことが分かった。すなわち国際共著の注目度の高さは、国を文化と定義する場合に認められることになる。その他に、主要16カ国では、研究投入、研究成果、研究の国際化の3つの点で特徴的な組み合わせがなされており、日本は投入が高く成果が平均的であるのに対して、他国と比較して国際化が極端に低いという結果が示された。
|