研究概要 |
本研究は,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて,日常のコミュニケーション場面における発話の意図の理解がどのような神経基盤によって支えられているのかを解明することを目的とした.このなかで本年度は,間接発話の理解に関与する神経基盤と感情価の影響について実験及び検討を行い,成果を発表した. 間接発話は,文字どおりの意味とは異なった内容を間接的に伝達する言語行為であり,この発話理解には発話者の心的状況や意図を推測する必要があると考えられる.Shibata et al.(Neuropsychologia, 2011)では,間接発話理解は字義的理解に比べ,発話意図の推論に関与すると考えられる内側前頭回(BA10)や,意味の逸脱の検出及び照合に関与する下前頭回(BA47)や側頭領域の関与が大きいことを示した.本年度はさらに,間接発話と字義文のそれぞれの発話によってもたらされる感情価の影響について,文条件(間接発話文と字義文)と感情価(positive,negative)を操作した実験を実施し,賦活領域を検討した.その結果,文条件では,間接発話理解が字義的理解に比べ,内側前頭回(BA10)や下前頭回(BA47)及び側頭領域のより大きな関与が明らかになり,前回の実験を裏付ける結果が得られた.さらに,感情条件ではpositive条件に比べnegative条件において,insula,putamenなどにより大きな賦活がみられた.特に,字義文におけるnegativeな発話においてその傾向が強く,間接発話が日常のコミュニケーション場面において聞き手の感情や体面を傷つけないように配慮した発話であることが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である発話意図の理解に関与する神経基盤の解明について,本年度までに行ったアイロニー,間接発話行為,ジョーク理解についての行動実験及びfMRI実験の結果に基づき,次年度は脳内機序についての包括的なモデルを提案する予定である.
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