本研究では、映画視聴を通して船酔いを軽減する方法の開発を行うことを目的としている。映画と同時に船舶の揺れに合わせた視運動刺激を与えることで、船酔いの原因である視覚-平衡感覚間の感覚情報競合を抑制し、船酔いの軽減を図る。 本年度は、提案する映画上映法によって船酔いの増強をどの程度低減出来るかを測定するため、本学生物資源学部附属練習船「勢水丸」を使用し、航海実験を行った。映画の3D投影位置をスクリーン位置あるいは無限遠に位置して見えるように表示した。また、船舶運動のピッチおよびロール回転を計測し、船舶の運動と逆方向に映画を回転・移動させる/させないように投影した。上記の組合せからなる4種類の映画上映法について、不快感、集中度、揺れの感覚強度を系列カテゴリーにより評価させた。その結果、映画を船舶運動に応じて移動させると、不快感は低くなるが揺れの感覚強度が高まることが示された。無限遠表示の効果については、左右眼用映像間にクロストークが生じたため、集中度を低下させた。 一方、刺激―感覚の心理学的測定の再現性を確保するために、3D映像音響システムとモーションベースを用いて船内シアター・シミュレータを構築し、実験室内で実験を実施した。予め記録した船舶運動(ピッチおよびロール運動)をシミュレートするようにモーションベースおよび3D映像を駆動した。仮想空間のシアターに設置したスクリーン中央部に「映画窓」(映画が映写される矩形領域)を表示し、「映画」を映画窓によってトリミングされるように映写した。船舶運動のロール回転と逆方向に「映画窓」および「映画」を回転させる/させないの組合せからなる4種類の映画上映法について、不快感、集中度、揺れの感覚強度を比較した。「映画窓」および「映画」を船舶運動と逆方向にロール回転させることにより、不快感が低下し集中度が高まることが示された。
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