研究概要 |
西洋音楽における長調・短調は,多くの場合楽曲の性格を決定するのに重要な役割を持っている.そして長調は明るく短調は暗いという一般的な印象を与える.そのような感覚を催す脳には,調・短調に対してある種の神経生理学的基礎があるのではないかと考えられる.それをMEGやfMRIで調べてきた.今年度MEGを用いた研究では,主に長調音階について,各音の役割がどのような神経生理学的現象に対応するのかを調べること,対応する実験を短音階についても始めることを目標とした.このため完全な音階を(ハ長調ならばCDEFGABC)標準刺激として高頻度で提示し,それから一音省略した音階を逸脱刺激として低頻度で提示する,いわゆるoddball課題を実施した.その際,省略直前の音を2倍の長さに伸ばしたり,繰り返したりした.また省略直後の音を繰り返す方法も行った.この3種の実験方法では,直前の音を伸ばす方法が最も顕著な反応を示した.音の種類では特にBの音の省略について強く反応したが,それはBの導音としての役割を反映している可能性が高い.さらに短音階を用いた場合には,導音の役割と思われる現象が長音階よりも強く現れた点が興味深いので,さらに確認したい.fMRIを用いた長・短三和音に関する実験では,特に短三和音提示時に,情動情報処理に関わる脳部位に反応が強く現れた.また不協和に関係する部位の反応も見られたが,それらの部位間の関係についてはまだよく分からない.短調音階に対するfMRI反応については,短三和音と比較して顕著な結果が得られなかった.その原因もよく分からないので,もう少し被験者を増やして実験を繰り返すことを考えている.
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