本研究は、我々の優れた視覚的な材質認識の能力が脳のどのようなネットワークの働きによって実現されているのかを明らかにすることを目的とする。本年度においては、ヒトを用いて、様々な脳領域における材質の情報の表現様式を機能的MRI(fMRI)を用いて調べた。第一に、自然画像及びCGを用いて作成した材質画像データベースを用い、多様なカテゴリの材質(布、木、金属など)の知覚・判別の過程に関わる脳内ネットワークを明らかにした。これら材質画像は、3次元的な形状はコントロールされており、表面の材質だけが異なっているよう作成されたものである。これら様々な材質画像を観察しているときの各脳領域の活動をfMRIにより計測し、画像工学等の分野で用いられてきた機械学習の手法を適用して、各脳領域の活動の空間的パターンから材質カテゴリを判別することが可能であるかを調べたところ、低次・高次視覚野のさまざまな脳領域の活動パターンを用いて材質判別が可能であることが明らかになった。第二に、それら様々な脳領域の活動について、各材質カテゴリ間の関係(類似度)を調べたところ、低次視覚野の活動は材質カテゴリ間の画像特徴の類似度を反映しており、腹側高次視覚野の活動が材質カテゴリ間の知覚的・心理的な類似度を反映していることが明らかになった。これらの結果から、低次視覚野から腹側高次視覚野へ至る経路において、物体表面の多様な材質についての情報が抽出・変換されていることが示唆される。
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