研究概要 |
2000年以来継続している廿日市市周辺の定点観察地77か所のアリ相調査を実施し,1か所で新たにアルゼンチンアリの侵入が確認された.しかし,採集状況が不自然であったため,定期調査以降に4回にわたって新侵入地とその周辺を探索したが,アルゼンチンアリを発見することができず,定期調査で採集された個体は,調査者の衣服等に付着していたものが偶然採集された可能性が高いと考えられ,そうすると2011年度は新侵入地が記録されなかったことになる.侵入後に在来アリ相が変化していく過程を多数の地点で追跡し,その置き換わりの過程がほぼ明確になってきた. またアルゼンチンアリ分布拡大の状態空間モデルを開発し,局所的な環境がアルゼンチンアリの侵入・定着それぞれのプロセスに与える効果を推定できた.2006年の土地利用細分データ(公開データ)にもとづいて,モデリング対象地域内を100mグリッド単位での土地利用(幹線道路・森林農地・水域)を特定し,それらがアルゼンチンありの侵入・定着過程に与える影響を調べた.低密度から中密度に移行する侵入過程においては,近傍のアリ密度ならびに幹線道路の密度が正の影響を与えているらしいと判明したが,これに対して高密度に定着する過程では周辺の環境要因は重要ではないらしいことがわかった. また,在来アリ群集に与える影響に関する統計モデルもほぼ完成し,現在よりよい予測を可能とするための改良を続けている.時系列構造を考慮したアリ間の競争行列を使った統計モデルであり,外来性侵入アリであるアルゼンチンアリの密度増加に対する反応性の推定にあたって階層ベイズモデルを設計し,MCMC法を使ってデータにあてはめている.このような群集モデルの妥当性を事前に検証するために,樹木群集の特性を階層ベイズモデル化して生態学データに応用する方法を確立し,論文として発表した.
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