広島県廿日市市内における,外来侵入生物であるアルゼンチンアリの分布拡大によって,在来アリ群集がうけた影響について評価した.これは研究分担者の伊藤が 2000-2012 年の12年間にわたる調査によって得たデータである.最新の調査では,新規にアルゼンチンアリが侵入した調査地は発見されなかったので,分布拡大の速度が低下している可能性が示唆された. このデータに見られる外来アリ (アルゼンチンアリ) と在来アリ群集 (主要 6 種) の時間変動とアリ間の相互作用をうまく推定できるような,時系列構造をもつ階層ベイズモデルを設計し,MCMC 法によって動態モデルのパラメーターの事後分布を推定した.その結果,外来アリが在来アリの個体群密度を低下させるとする明瞭な結果が得られた.一方で,外来アリは他のアリから影響を受けずに高密度することがわかった.この結果は,侵略的な外来生物が在来生物群集にネガティブな影響を与えているひとつの証拠になりうると考えられる.現在,解析結果をとりまとめて国際学術誌に投稿している. またアリ集団のデータを時系列構造のある階層ベイズモデルで解析する研究を 3 年間継続した経験を反映させて,生態学研究者たちがベイズモデルによる生態学研究を支援するために,久保が「データ解析のための統計モデリング入門 - 一般化線形モデル・階層ベイズモデル・MCMC -」と題する書籍を 2012 年 5 月に刊行し,一年間で 5000 部以上が販売された.
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