研究開始当初は、インフレ率の理論的研究およびインフレ率が重要視された時期(20年代の世界恐慌や70~80年代など)を中心に過去の実証研究について詳しく検証を重ねていた。しかし、最近の経済現象を鑑みると、世界の経済構造が従来と比較にならないほど大きく変化したことを確認するに至った。実際、2007年の米国サブプライムローンの問題に始まり翌年秋のリーマンショックに至る金融危機は、世界中に飛び火し、続いて世界的経済危機の勃発へと転化した。企業業績や主要各国の経済統計は従来の景気循環にないスケールで急激に悪化し、グローバルな金融システムのもとでは世界各国の経済構造が互いに強く影響を及ぼし合うようになった。 そこで、昨年度から研究の焦点を最近の世界的金融危機前後の期間に絞った。今年度は、金融危機の発生メカニズムおよび波及の効果を検証しながら、経済規模やインフレ率などのマクロ経済指標との関係を分析することに重点を置き、危機発生の統計的モデル化を検討した。 金融危機の波及については、政府債務に対する信用リスク(ソブリンリスク)を取引する金融派生商品、クレジット・デフォルト・スワップの市場価格から、危機の波及を代替するインデックスを作成した。偏った価格分布をもつことを考慮して、本研究の研究体制において予備的な共同研究として開発した、価格分布を重視するインデックスの構築法を適用した。世界各地域のソブリンリスク・インデックスを作成し、その変動特性と因果関係を統計モデルに基づいて計測して波及効果を検出した。成果はwebで公開し、最近のデータを用いて分析結果の更新を続けている。 金融危機の発生のメカニズムについては、危機の前後における資産価格やインフレ率の変動の関係に基づいた金融危機の統計的モデリングを検討し、これまでデフォルトが発生した南米などの国々について詳しい検証を行った。
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