本研究では、HIV-1の本質的特徴である、高変異性を逆手にとり、HIV-1遺伝子に転写エラーによる「過剰な変異」を起こしHIV-1を自壊させる方法を確立することを目指し、分子シミュレーションによる基礎的研究を実施する。 本研究は、3つの研究課題からなる。本年度は、研究計画に従い研究課題1に着手した。 研究課題1の目的は、HIV-1が自壊する際のHIV-1逆転写酵素転写エラー率を算出することである。Nowakは、一次元のゲノムを持つウイルスの数理モデルをもとに、ウイルスが自壊する変異率に閾値が存在することを示唆している。現在、我々は、Nowakの研究を参考にHIV-1ゲノム構造を考慮した数理モデルを構築することに成功しており、シミュレーション実験により、HIV-1が自壊する逆転写酵素転写エラー率の算出を試みている。加えて、免疫による淘汰圧を考慮した場合についても検討している。 研究の進捗は当初の予定より遅れているが、その理由は、本研究の採択が遅れたことによる(2010年11月採択)。今後の研究の進捗を加速させるため、来年度予定している研究課題2に必要なスキルを本年度に習得した。 研究課題2では、HIV-1逆転写酵素転写エラー率を高める構造的要因について検討するため、分子動力学計算によるHIV-1逆転写酵素のシミュレーション実験を予定している。この実験には、高度な分子シミュレーションスキルを要するため、産業技術総合研究所主催の生命情報科学人材養成コンソーシアムの分子動力学計算実習講座に参加し、高度かつ実践的なシミュレーションスキルを習得した。
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