研究概要 |
現在のエイズ治療は, 3種以上の抗HIV薬を組み合わせた多剤併用療法 (cART) が中心である. この治療法は, 薬物耐性を抑制する点で有効である一方, いくつかの問題を抱えている. 例えば, 既に抗 HIV 薬に耐性を持つ患者に対しては, 交叉耐性の問題もあり, 効果的なウイルス抑制を期待できない点. また, 抗HIV 薬に副作用を呈する患者では, 長期の服用が難しい点が挙げられる. このようにcARTで治療が困難な患者に対しては, cART以外のいくつかの代替療法を用意しておくことが望ましい. この研究課題では, ウイルス抑制を目的とする cARTと異なる考えに立った, エイズ代替療法の理論的基礎研究を実施した. 本研究課題が検討する代替療法では, HIV-1の"易変異性"を逆手に取り, 変異原により更なる変異を誘導することでHIV-1擬種集団を自壊に導く. なお, 変異原とはゲノムに変異を誘導する物質のことをいう. 一般に変異原として利用されるのは, デオキシヌクレオチド類似物または リボヌクレオチド類似物である. このような研究背景のもと, 本研究課題では, HIV-1の感染複製プロセスをを考慮した HIV-1感染数理モデルを提案した.そして, 変異原による突然変異率操作によるHIV-1擬種集団の自壊ダイナミクスと, 自壊に至る力学的条件を明らかにした. 具体的成果としては, 1. 自壊誘導による治療を可能とするパラメータ条件を明らかにした. また, 2. 現在得られている観測データをモデルパラメータ値とすることで, 変異原存在下において, HIV-1擬種集団が自壊する可能性があることを明らにした.
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