本年度は、既に知られている化合物とタンパク質の複合体立体構造を鋳型として、標的化合物の結合立体構造を予測する、鋳型利用式の低分子構造予測法の開発を中心に行った。鋳型利用式では、鋳型化合物とよく重なるように標的化合物構造を変換・変形する必要がある。従来提案された鋳型利用法の多くは、非特異的なガウス関数で重なりを評価していた。本研究では、MCS(最大共通部分構造)による原子対応を用い、対応する原子間の距離が最小となるよう変換・変形操作を行う方式を採用した。MCSは初年度に開発されたプログラムkcombuによって計算する。試験予測計算を行ったところ、十分類似した鋳型分子が入手可能な場合、従来の非特異的な重なり関数を用いた手法より、予測精度と計算速度の双方が優れていることがわかった。本年度は、さらに、キラリティの変換操作や、結合タンパク質原子との相互作用エネルギーも取り入れ、予測精度の改善を試みた。開発した鋳型利用式の低分子構造予測プログラムをfkcombuと名づけ、その成果をまとめた論文を投稿準備中であり、ソースコードの配布準備も進めている。また、鋳型構造として、同族ではあるが異なるタンパク質と低分子化合物の複合体を用いた場合、どの程度の予測精度が得られるかについて検討した。この場合、標的となる化合物―タンパク質を、鋳型となる化合物―タンパク質の立体構造を用いて予測するため、化合物の標的―鋳型間の類似度、タンパク質の標的―鋳型間の類似度の両方が予測精度に影響を及ぼす可能性がある。タンパク質キナーゼ族を例として試験予測計算を行ったところ、タンパク質の鋳型との類似度に比べ、化合物の鋳型との類似度のほうが予測精度に大きく影響することがわかった。これは、標的タンパク質との類似度が低くても、化合物が類似した複合体構造が入手できれば、それを鋳型として十分な精度の予測ができることを意味する。
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