研究概要 |
糖鎖は,発生・分化・免疫応答など生体反応において重要な機能を有している.特に,糖鎖は細胞間認識や細胞間相互作用に対し深く関与していることから,それに関与している糖鎖-タンパク質相互作用機能の解明が重要となる.本提案研究は,糖鎖-タンパク質相互作用に関し,生命情報学アプローチを中心とてして進めてきた.その結果,我々は糖鎖構造の化学的ならびに物理的特徴の抽出を行った.具体的には,糖鎖構造から分子量,結合位置,アノマー配置,疎水性,溶解度,極性の6次元の特徴抽出を行った.これら6次元からなるデータに対し,クラスター解析を行い類似性の高い糖鎖クラスターを獲得した.これらを最終的には糖鎖-タンパク質相互作用予測法の学習データセットをして用いるのだが,そのパイロット実験として,脂質メディエーターの一種であるプロスタグランジンE2と類似した活性をもつ化合物の探索をサポートベクターマシン(SVM)にて行った.この時,2つの特徴選択法であるFilter法とKullback-Leibler(KL)情報量も考慮して開発を行った.その結果,予測精度はSVMのみの場合は76.8%を示し,SVMにFilter法を適用した場合は76.9%,KL情報量を適用した場合は77.0%とわずかながら精度が向上した. 一方,研究分担者糸乗担当の「糖鎖-タンパク質相互作用予測結果の検証」について,種々の糖鎖構造の解析を行った.即ち,軟体動物,節足動物あるいは菌類の細胞表面に存在する糖脂質を抽出・精製し,その化学構造について分析機器を用いて測定した.動物種に共通の構造を持つ糖脂質群と特徴的な構造が新規に見いだせた.特に脊椎動物が持つ血液型抗原となる糖鎖構造を持つ糖脂質群を軟体動物から見いだしたことにより,糖鎖とタンパク質の相互作用を検出するための生体物質を供給できることとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案研究の最終目標は,生物学実験では難しいと言われている糖-タンパク質相互作用を計算機により予測するシステムを開発することである.その目標に対して,糖鎖構造の特徴量抽出とパイロット実験でシステムを構築した.また,生物実験の面では,糖鎖とタンパク質の相互作用を検出するための生体物質を供給できることとなった,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後とも,情報学と生物学を融合して研究を進めていく.現在,大きな問題点はないが,唯一タンパク質側の特徴量抽出が遅れていると思わることから,2012年度はタンパク質結合部位の適合性関数の作成を目指す.その作成法は既に提案はしており,その実行が必要ということであるので,問題点は現在のところ存在しない.
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