複雑なヒト腕の運動は複数の経由点を通るジャーク最小軌道として脳内で表現されているという仮説に対して、経由点の表現方法として、経由点の位置及びその運動方向を用いた場合について検討したが、この場合のジャーク最小軌道はヒトの実現軌道と一致しなかった。その原因を探るために、運動計画モデルとしてトルク変化最小軌道を用いて検証した。経由点での運動方向のみを指定するトルク変化最小軌道を直接求める事は困難であったため、経由点での運動方向は一定として、早さを様々に変えてトルク変化最小軌道を計算して評価関数を比較し、最も小さくなる運動速度の場合の軌道を求めた.その結果、ジャーク最小軌道よりはヒトの軌道との誤差が小さくなったが、ヒトの運動の特徴を再現する軌道にはならなかったため、ヒト腕運動の表現方法としては経由点の位置のみで表現する方が妥当である事が示唆された。 この結果を踏まえ、これまで提案した手話単語運動軌道を近似する方法によって抽出された経由点を照合する方法を検討した。ヒトの体格や、運動する空間の個人差を吸収し、かつ単語運動が本来持つ空間の差を反映するために、手話の音韻表記法を参考に空間を離散的に分割する方法と、先行研究を参考にしたDPマッチングの重み付けに経由点の通過時間を用いる手法を提案した。1人の被験者による360単語のデータと、6人の被験者による60単語のデータを用いて翻訳実験を行ったところ、前者では空間を離散的に分割して経由点を直接比較する手法が、後者の実験では提案したDPマッチングの手法が他の手法より優れている事を示した。また、どちらの実験でも単純なDPマッチングの結果よりも翻訳精度は高く、経由点は手話翻訳の特徴点として適していることが示された。 さらにロボットが人間の運動を真似ることで運動学習する場合に、この経由点情報による運動表現によって教示する手法についての検討も行った。
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