研究課題/領域番号 |
22500281
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
藤井 宏 京都産業大学, その他部局等, 名誉教授 (90065839)
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研究分担者 |
伊藤 浩之 京都産業大学, コンピュータ理工学部, 教授 (80201929)
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研究期間 (年度) |
2010-10-20 – 2014-03-31
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キーワード | 内的な認知の神経機構 / 心的イマジェリー / 前脳マイネルト核 / 擬アトラクターへの状態遷移 / 皮質求心性アセチルコリン / ムスカリン様前シナプス抑制 / アトラクターの一時的な再活性化 / シナプス強度の修飾 |
研究概要 |
心的イマジェリー、エピソード記憶の想起など、内的な認知に伴う大脳皮質の神経動力学 脳は 外界からの感覚刺激の知覚のみならず、内的な認知の働き,例えば心的イマジェリーやエピソード記憶における情景の意識的な想起などに関わっている。このような認知過程には外界からのボトムアップ視覚入力は関与しない。大脳皮質1層へのトップダウン信号が如何にして内的な表現をそのネットワークの動的な活性として一時的に再構成するのか、その神経機構について一仮説を提起した。 トップダウン注意に伴って皮質求心性アセチルコリン (ACh) が一時的に前脳マイネルト核から皮質各層へ分泌される。皮質 2/3 層へのこのACh放出の結果、GABA介在細胞へのムスカリン様前シナプス抑制をもたらし、錐体細胞系を脱抑制する (Kluglikov 2008; Salgado 2007) トップダウン注意に伴って、動的、一時的なシナプス強度の修飾をもたらす。この脱抑制のシステムレベルの帰結は殆ど分っていない。本研究において、ACh 放出に伴うニューロン間の結合性の過渡的な修飾が、皮質1層へのトップダウン・グルタメート入力とともに、記憶の神経基盤としてのアトラクターの一時的な再活性化の神経機構をあたえるという理論的可能性を提案した。 ACh の基底レベルでは皮質動力学は擬アトラクター状態に帰還する。この状態では複数の内在する”内部状態” 間を不断に遍歴する。換言すれば、トップダウンの注意は皮質動力学において2つのアトラクター景観間の遷移を惹き起す:すなわち、擬アトラクターからなる景観(基底状態)と,注意存在下、アセチルコリンの過渡的投射下におけるアトラクター的景観である。本研究では、皮質2/3 層における錐体細胞―介在細胞系の回路網に基礎をおきつつ,以上の仮説に関する数値シミュレーションを行い、以上の結果の可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1の研究段階として純粋に内的な脳内過程である心的イマジェリーの機序について、皮質求心性アセチルコリンの分岐パラメータとしての役割に注目しつつ、従来の立場と異なった新仮説を提案した。また、数値シミュレーションによる妥当性の検証を行った。今後は,認知心理学、神経生理学等の角度からの検証が望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の第2段階としての計画は、レビー小体型認知症における視覚的幻覚の神経機序である。この現象もまたトップダウン機構(の異常!)によっているが、皮質内のアセチルコリンの大幅な減少と現象学的に明確な相関をもつ (Perry & Perry 1995; Collerton 2005)。 このような症状は、脳(皮質) - 視覚感覚皮質、側頭皮質および、前頭前野皮質間のネットワークのダイナミックな側面(の不全) dysfunction に依存するが、その中でムスカリン受容体、ニコチン受容体の活性の減少がいかなる機序によってこのような“偽の”主観的感覚を与えるのか?現在までの第一段階の知見を基礎に、仮説的な提案を行い、全体的な枠組みを構築するとともに、数値シミュレーションへによって仮説の妥当性を検証する。
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