研究概要 |
第II期計画として、I 期の研究成果を踏まえて、レビー小体型認知症(以下DLB) に於ける視覚的幻覚(VH) の神経機序の研究を開始した。DLBは認知症においてアルツハイマー型に次いで多く、社会的にもその解明が緊急課題である。その中核症状は、内的なトップダウン機構によって実際には存在しない人や動物の像が眼前に現れ、数分間程度持続する。このVHの特徴的な症状を説明する神経機構並びにその理論的枠組みは未だ解明されていない。本研究では、認知神経科学,神経心理学の知見に基づく概念モデルを提案した。さらに数理シミュレーションを交えて、実験的・臨床的に検証可能な仮説の構築を目的として海外研究者(英国) との共同研究が進行中である。 通常の視覚認知に於いては、視覚野以外に側頭皮質 (IT) と前頭前野(PFC)、とりわけ腹外側前頭前野 (VLPFC) と眼窩前頭野 (OFC) が関与する。IT野は注意中心部にある視覚イメージの内的表現を立上げる。この過程に於いて PFC からINDEX という対象物体のカテゴリー的本性 (categorical identity) がトップダウン信号として IT へ送られる。動力学的には、IT での詳細イメージ立上げへのバイアス bias、あるいはトップダウンの facilitation として働く。このために、下位の皮質や皮質下領域からPFC へとりわけ3つの入力路が働く。対象と場面との文脈・状況的な連合のための伝導路III、期待・情動に関する伝導路 II、対象の粗い情報を送る皮質“短絡路”(伝導路 I,おそらくiFOF とよばれる繊維束)である。 本研究では、この伝導路Iを主とする信号乱れによる上記 INDEX の異常が幻覚の中心起因とする作業仮説を提起した。その病理学的、臨床的基盤について国際情報交換 英国(UK) を含めた研究が進行中である。
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