研究概要 |
本研究課題では、うつ病の発症メカニズムを知るために成体海馬における神経新生について、とくに神経新生を制御する重要なファクターであるsFRP3に注目して研究を行っている。初年度において抗うつ治療として用いられる電気ショック(ECS)の投与が、sFRP3の発現量変化を介して神経新生を活性化させることを示した。 採択後二年目である今年度は、抗うつ薬投与によるsFRP3発現への影響を調べるために野生型マウスに抗うつ薬(フルオキセチン,SSRI)を投与した後に海馬におけるsFRP3発現量をRT-PCRおよびin situ hybridizationにより確認した。抗うつ薬投与の短期投与およびPBSの投与ではsFRP3の発現量は変化しなかったが、長期投与によりsFRP3発現量は投与後6時間で約50%まで低下し、その後数週間かけて徐々に回復することが確認された。しかもこの効果は選択的セロトニン阻害薬だけでなく三環系抗うつ薬においても同様の結果であることが分かった。 さらにsFRP3がうつ病の病態形成にどのように関わるのかを明らかにするため、sFRP3ノックアウトマウスによる抑うつ行動に関する行動実験を行った。抗うつ薬のスクリーニングに用いられる非常に簡便かつ有用な評価方法である'尾懸垂試験'ならびに'強制水泳試験'を用いて「sFRP3ノックアウトマウス」「抗うつ薬投与を受けた野生型マウス」「無処置の野生型マウス」の各グループで比較を行った結果、ノックアウトマウス群は抗うつ薬の長期投与を受けた野生型マウス群と同じ行動表現型を示し、かつ無処置の野生型マウズと比較してより抗うつ型の行動をとることが明らかになった。 この結果は'抗うつ治療はsFRP3の発現量減少を引き起こし、sFRP3による抑制が減弱して海馬神経新生が活性化されることによって抗うつ作用を起こす'という仮定を強く支持するものである。
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