研究概要 |
神経系の幹細胞の成立過程および維持機構の理解は、生物学的にも、再生医療への応用という観点からも非常に重要な課題であるが、多くの不明な点が残されている。私たちは、グループB1 SOX転写因子(SOX1/2/3/19) が、神経系の成立の鍵となる因子であることをこれまでに示した。この一連の研究において、 グループB1 SOX因子の下流で働く未知の因子が神経細胞特異的な遺伝子(ascl1, stmn2 [scg10]など)の発現を抑制することを見出した。この新規転写抑制機構は、神経系の幹細胞の成立と維持に密接に関係している、極めて重要な制御機構である可能性が高いことから、本研究での解明を目指した。 これまでに、ascl1a, stmn2aの転写抑制に必要なシスエレメントの同定を行ったが、その部位に作用する転写抑制因子とSOX因子との関連は今後の研究の課題となった。別のアプローチとして、B1 SOX因子ノックダウン胚で発現が低下している転写抑制因子を探索し、Hesx1, Zic因子などが見いだされた。神経分化におけるこれらの因子の詳細な役割の解析が今後必要とされる。 さらに、SOX因子の下流で働き神経分化を負に調節する可能性がある因子として転写調節因子以外に、miRNAが関与することが予想されたことから、最終年度はmiRNAも研究対象とした。microRNAは、機能性小分子RNAで、胚発生、細胞の分化や増殖に重要な役割を持つ。実際、soxB1 ノックダウン胚における様々なmiRNA遺伝子の発現変化をRT-PCR方により調べたところ、神経系の発生との関連も知られているmir-430 クラスターを含めて複数のmiRNAに発現レベルの変化が見いだされた。現在、これらのmiRNAと神経系の発生との関わりをさらに解析中である。
|