ある目的を持った動物の行動は常に、その行動と他の目的を持った行動との選択過程を経て遂行されている(例えば闘争-退避の選択など)。また、同一の目的を達するための手段が複数存在する場合もある(例えば採餌場所の選択など)。従って、適切な選択行動は動物がある目的を達するための重要な手段となり、周囲の環境に対する知覚に加えてさらに学習経験を参照することで、より環境に適応した行動を取れるようになる。しかし、学習のくり返しが選択行動の発達に果たす具体的な役割の解析や、それに関わる神経回路メカニズムの解明はあまり進んでいない。そこで本研究では、学習のくり返しが選択行動の発達に及ぼす影響の程度を明らかにすると共に、選択行動の発達に関わる脳部位を見出すことによって、適応的な選択行動がどのように発達するのか、そのメカニズムの解明を目指した。過去の研究から動物の選択行動にはマッチングの法則と名付けられた規則性が見出されていて、二つの選択肢の中からどちらか片方を選ぶ頻度の割合は、それぞれの選択肢をそれまでに選んだ結果得られた報酬の割合にほぼ一致することが知られている。平成24年度の本研究では、マッチングの行動に従った行動(マッチング行動)が発達する過程に、脳内の側坐核コアと呼ばれる領域がどのように関与しているのかを調べる目的で、興奮性神経毒の脳内局所注入によりコアの神経細胞が破壊されたラットを作成した。このラットに餌を報酬にした二つのレバー押しの選択行動を学習させて、マッチング行動の発達の違いを対照群と比較し、前年度の予備実験で得られた結果の再現性を確認した。その結果、コア破壊群のラットでマッチング行動の発達が亢進し、かつ、二つのレバー間のスイッチング反応の割合も低下していることが明らかになった。この結果を査読のある英文学術誌であるBMC Neuroscience誌に投稿して受理された。
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