研究概要 |
本研究の目的は、最近社会的な問題となっている性同一性障害に代表される脳の性分化異常の治療法や予防法の確立を念頭に、雄で有意に大きい神経核である視索前野性的二型核(SDN-POA)をモデルとしてその形成過程を可視化し、脳の性分化機構の解明を目指すものである。SDN-POAの雄性化にはエストロゲンが重要な役割を演じているが,SDN-POAの可視化には我々の作出したエストロゲン受容体遺伝子プロモータートランスジェニックラットが活用できることを報告し、生きた状態でSDN-POAをEGFPにより可視化できる特徴を利用することでSDN-POA形成過程をin vitroで観察することを試みた。すなわち、胎生18日齢脳スライス切片を培養し、EGFP蛍光を指標にして1時間毎のタイムラプス撮影を行うことで、in vitroにおいてEGFP発現細胞の集団形成が確認され、この集団はSDN-POAマーカーであるカルビンディンを発現し,培養液中へのエストロゲン添加によりそのサイズが大きくなることからSDN-POAと同等のものであることが示された。培養液中に添加したpropidium iodideを指標にすると細胞死はエストロゲンの有無で差がなく、従来言われていた性分化機構における細胞死制御の重要性を否定する結果となった。一方でダイナミックな細胞移動によりSDN-POA形成がなされ、特に集団を形成後、集団の中での移動方向にエストロゲンが影響を与えている可能性が示唆され、詳細な検討を行っている。
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