研究課題
恐怖条件付けに代表される扁桃体依存性の学習・記憶は、哺乳動物が身の回りの危険を察知し、回避するという、生存して行く上で非常に重要な学習機能である。また、この学習機能の異常がヒトの心的外傷後ストレス障害(PTSD)と関係することから、そのメカニズムの解明は、今日の神経科学における重要な課題の一つである。本研究においては、キナーゼ活性を欠損させたカルモジュリンキナーゼII遺伝子改変マウス[CaMKIIα(K42R)]を用いて、扁桃体依存性の学習・記憶のメカニズムを明らかにしようとしている。本年度においては、恐怖条件付け学習を取り上げ、「音などの感覚刺激とフットショックとの条件付け(cued conditioning)」並びに、「場所情報とフットショックとの条件付け(contextual conditioning)」の二種類の条件付け学習の解析を行った。その結果、この変異マウスにおいては、海馬・扁桃体の両方に依存する「場所情報とフットショックとを連合させる条件付け学習(contextual learning)」が著しく障害されていたのに対し、扁桃体のみに依存する「音などの感覚刺激とフットショックとを連合させる条件付け学習(cued learning)」は、野生型マウスに比べて明らかに低下しているものの、一定程度の学習と記憶が可能であった。このことから、CaMKIIαのキナーゼ活性は、海馬依存性の学習・記憶のメカニズムには必須であるのに対し、扁桃体依存性の学習・記憶に対しては、重要ではあるが、CaMKIIαのキナーゼ活性以外のシグナル伝達経路を介するメカニズムが存在するものと考えられた。
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http://www.nips.ac.jp/huinfo/research/ns_ResO5.htm
http://www.nips.ac.jp/contents/release/entry/2009/06/post-7.html