研究課題/領域番号 |
22500305
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小島 正己 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 研究グループ長 (40344171)
|
研究分担者 |
上垣 浩一 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 主任研究員 (00356544)
石川 保幸 奈良先端科学技術大学大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (90346320)
|
キーワード | 神経細胞 / シナプス / 成長因子 / 一塩基多型 |
研究概要 |
神経栄養因子ファミリーはTrk(tropomyosin-related kinase)受容体ファミリーを介したシグナル伝達により神経細胞の生存維持や神経回路の発達などを調節する脳の成長因子群である。脳由来神経栄養因子BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)は、その高親和性受容体であるTrkBや低親和性受容体であるp75NTRに結合し、神経細胞の発達やシナプス機能等の調節を行っている。BDNFはN末端から分泌に必須のシグナル配列、機能未知のプロドメイン、BDNF活性を有する成熟ドメインで構成されており、多くの成長因子と同様に、細胞内外のプロテアーゼにより、前駆体BDNF(proBDNF)から成熟体BDNF(matureBDNF,mBDNF)に変換される。このようにして活性化されたmBDNFは軸索の分岐、樹状突起の成長、活動依存的なシナプス形態の調節などを行うことが過去に報告されてきたが、最近、不活性と考えられていたproBDNFが、成熟海馬神経細胞の突起の退縮やシナプス機能低下を引き起こすことが報告したが。昨年度までの本研究では、proBDNF→mBDNFの際に産生されるプロドメイン(BDNF pro-peptide)が海馬スライス標本上で神経伝達を修飾することを見出した。proBDNF→mature BDNF+BDNF pro-peptideというプロセッシング反応は、多くの成長因子の活性化に共通するメカニズムであるが、mBDNFと同時に産生されるpro-peptideの生理機能の研究は進んでいない。本年度は、pro-peptideに対する抗体、組換え型を用いた研究から、3点を見出した。内在性BDNF pro-peptideがシナプス前部に存在することを報告した。放出されたBDNFpro-peptideはシナプス伝達の長期抑圧を促進する因子であること、そのメカニズムとして、p75を介するシグナル伝達が重要であること、一塩基多型による配列中のアミノ酸置換(Val66Met)はBDNF pro-peptideの生理作用を変えることも見出した。さらには、低密度海馬培養神経細胞を用いて、発達初期におけるBDNFおよびBDNF pro-peptideの突起成長への効果を形態学的に解析しその違いの研究に着手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の進捗に重要な役割を果たした抗体の作製、pro-peptideの生理作用と一塩基多型の関係など、当初の計画以上の新しい成果が得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、神経系で作用する新規ペプチドBDNF pro-peptideの機能を明らかにしてきた。同様のpro-peptideの作用が神経系およびそれ以外の生体で研究することは重要であり、本研究を新学術分野の重要な課題として大きく発展させていきたい。
|