研究概要 |
脳の大部分では、生後にニューロンは新生されなくなるが、海馬では成体になってもニューロンの新生が続いている。近年の研究により、この成体海馬のニューロン新生は、記憶・学習機構、精神疾患などに関連していることがあきらかになっている。本研究では、胎生期から成体期の海馬で起こるニューロン新生を包括的に理解することを目的とする。成体期や生後初期の神経幹細胞は、GFAPを発現することが知られている。そこで、胎生期から生後初期にかけてのニューロン新生に焦点を当てて、GFAP陽性神経幹細胞の出現部位、移動経路、分化過程、顆粒細胞層への組み込み様式などを解析した。GFAP陽性神経幹細胞やその子孫を可視化する解析ために、GFAP-GFPトランスジェニック(Tg)マウスを用いた。また、標識された細胞の性質を調べるために、神経幹細胞、未熟ニューロンなどに発現する分子のマーカー抗体を用いた免疫組織化学を行った。GFP陽性細胞は、E13.5に外套内腹側の脈絡叢付着部位付近の脳室層に出現し、E17.5では海馬采上部の増殖部位や、軟膜側に新たに形成された歯状回原基に多数見られる。 本年度は、これらの部位に存在する細胞の性質を、グリアマーカーであるGFAP、BLBP、神経幹細胞のマーカーであるSox2、ニューロンのマーカーであるNeurogenin2, Tbr2, NeuroDなどを用いて解析し、大脳新皮質の神経幹細胞・前駆細胞と比較してみた。 大脳新皮質では、神経幹細胞は、GFP陰性・BLBP陽性であったが、海馬歯状回顆粒細胞層を形成する神経幹細胞・前駆細胞は、GFP陽性・BLBP陰性であった。ニューロンマーカーについては、違いが見られなかった。以上の結果は、大脳新皮質と歯状回顆粒細胞層を形成する神経幹細胞・前駆細胞は、その初期から性質が異なることを示している。
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