本研究の目的は、皮質内微小電気刺激による機能マッピングおよび神経トレーサーを用いたaxon tracing法により、異なる年齢、月齢のサルの前頭葉皮質の機能および神経連絡を比較し、霊長類の前頭葉皮質にある複数の運動関連領野の生後発達、機能分化の過程を明らかにすることである。23年度には、成熟マカクサル1頭に加え、幼若マカクサルを用いて電気生理学的マッピングを行なうことを予定していた。実験の第一段階として、幼若マカクサルを用いた電気生理学実験のセットアップおよび手技を検討した。幼若マカクサルとしては1歳8ヶ月のアカゲザルを用いた。幼若サルの実験にはこれまで用いていたモンキーチェアは不適当であったため、新たなモンキーチェア1台を購入の上、幼若サルの体型に合わせて改造を行なった。幼若個体は実験環境において強い不安、恐怖を示すため、約1ヶ月かけて馴化を行った。じゅうぶん馴化した後、手術を行ない、頭部固定のための固定具および電気生理学実験用のチャンバーを装着した。刺激実験では、無麻酔で実験が行うことが望ましいため、頭部を固定した状態での馴化を行った。しかしながら、1ヶ月以上の訓練にも関わらず、頭部を固定した状態では強い緊張が取れなかった。そのたあ、ケタミンによる軽度の麻酔下で実験を行なうことにした。麻酔は、自発運動がほとんど見られないが、実験者による接触には反応する程度に保った。実験の結果、弓状溝膝部のすぐ尾側側(腹側運動前野に相当)の刺激では、手を顔面に近づける運動が、より尾側の一次運動野と考えられる領域では、より低い位置へ手を伸ばす運動が誘発された。この結果は、すでに報告されている成熟サルにおける実験結果と一致する。この結果より、運動関連領野の機能分化は、生後1年半程度では成体とほぼ変わらないと推察される。
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