本研究の目的は、皮質内微小電気刺激による機能マッピングおよび神経トレーサーを用いたaxon tracing法により、異なる年齢、月齢のサルの前頭葉皮質の機能および神経連絡を比較し、霊長類の前頭葉皮質にある複数の運動関連領野の機能およびその生後発達の過程を明らかにすることである。前年度までの幼若アカゲザルを対象にした実験の結果、弓状溝膝部のすぐうしろの皮質の刺激では、手を顔面に近づける運動が誘発された(hand-to-face領域)。より尾側の一次運動野と考えられる領域では、遠方へ手を伸ばす運動が誘発された(reach-out領域)。この結果は、すでに報告されている成熟サルにおける実験結果と一致する。この結果より、運動関連領野の機能分化は、生後1年半程度では成体とほぼ変わらないと考えられた。 本年度は、昨年度の実験に用いたのと同じ個体を用い、2歳半の時点で前頭葉電気刺激による運動誘発のパターンに変化がないことを確認した。また、hand-to-face領域reach-out領域に神経トレーサーを注入し、脳の切片標本上でそれぞれの領域の位置および細胞構築を確認するとともに、それぞれの領域の神経入力パターンを調べた。その結果、reach-out領域は、一次運動野(4野)の吻側部に位置し、運動前野背側部からの強い入力を受けていた。また、頭頂葉皮質では、頭頂間溝内側壁(MIP野)からの入力を受けていた。これに対しhand-to-mouth領域は、4C野の尾側部に位置し、腹側運動前野(弓状溝後壁)からの強い入力を受けていた。頭頂葉のMIP野からの入力はreach-out領域に比べて少なく、また、VIP野からの入力も確認できなかった。 以上の結果により、上肢の運動のうち、手を目標物に伸ばす運動と手を顔ないし口に引き寄せる運動を起こすのに必要な神経回路の一部が同定できた。
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