皮質興奮性神経細胞に由来する投射線維は、皮質外に投射するものに加え、同側・対側皮質に投射するものが非常に多い。神経機能を発揮する上でこれらの線維連絡は重要であるが、その複雑さのため、その形成過程には未解明な点が多く残っている。そこで本研究では、マウスを対象にこれらの形成過程を明らかにすることを目的とした。本年度は、興奮性神経細胞がいつどこでどのように軸索を形成するのかを明らかにするため、Cre/loxP系プラスミドを用いた子宮内電気穿孔法により組織中の少数の細胞を標識し、固定脳および培養系を用いたタイムラプス法を用いてその形態を観察した。まず胎生12.5日の外側領域の脳室帯細胞に対して電気穿孔法を行い未分化な細胞を標識した。40時間後に固定し、この間に生じた興奮性神経細胞を観察したところ、中間帯に分布する一部の細胞、ならびに皮質板に分布する全ての細胞が100μm以上の一本の長い突起を持つことがわかった。次に、この突起形成過程をタイムラプス法で調べるため、脳スライス標本を作成し、培養下に共焦点レーザー顕微鏡を使って標識細胞の形態変化を観察した。すると、脳室帯を離れ、中間帯に移動した細胞は、数時間にわたって複数の短い突起をダイナミックに伸縮させたのち、ある時点から一本の突起を一定方向に向かって伸長させることが明らかとなった。また、これらの細胞はその後さらに突起を伸長させながら皮質板へと移動した。以上の結果から、少なくとも外側領域の軸索の形成は脳室帯を離れ中間帯で起こること、これは皮質板に移動する前に起こることがわかった。今回観察した細胞は主に皮質外に投射する神経細胞であり、今後は時期を変え、同側・対側皮質に投射する神経細胞の軸索形成過程を明らかにする。
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