研究概要 |
大脳皮質では皮質外領域に投射する線維に加え、同側・対側皮質間の領域を結ぶ線維が非常に発達している。これらの線維は主に興奮性神経細胞に由来しており、結合様式から連合・交連線維に分類される。神経機能を発揮する上でこれらの線維結合は重要であるが、その複雑さのため、特に皮質間線維の形成と発達には未解明な部分が多く残されている。そこで本研究では、まず、興奮性神経細胞の初期軸索形成過程を調べ、さらにその後の発達過程を解析して、皮質間結合の形成メカニズムを明らかにすることを目指した。昨年度までに、深層の興奮性神経細胞は、放射軸方向の細胞移動前に中間帯で軸索を形成することを明らかにした。本年度は、この軸索形成の時期が浅層の興奮性神経細胞も含め広く一般化できるかどうかを調べた。その結果、層に関わりなくほぼすべての細胞が移動開始前に中間帯において軸索を形成することが明らかとなった。さらに、軸索の伸長方向には標識時期依存性があり、早期に標識した細胞の軸索は腹側(内包)に向かい、途中からほぼすべてが背側(脳梁)方向に切り替わった。これらはそれぞれ皮質外投射細胞のマーカーと、皮質内投射細胞のマーカーに陽性であった。また、生後3週で層分布を調べたところ前者は深層に、後者は一部深層を含む浅層(II/III, IV層)に分布した。背側方向に伸長する細胞群の軸索発達過程について第一次体性感覚野に焦点を当てて調べたところ、軸索が脳梁を通って対側に伸長するとともに分岐が生じ、生後約1週目までに、すでにこの感覚野から投射することが知られている同側対側の皮質内投射先に軸索が到達した。これらの結果から、皮質間線維連絡の形成は、初期に共通して軸索を背側方向に伸長させたのち、ここからの分岐と刈り込みで形成されることが考えられた。
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