損傷を受けた神経細胞の再生・変性過程にミトコンドリアの機能が深く関与することは従来報告されている。これに加え、神経細胞内での適切なミトコンドリア動態制御の重要性が近年認識されつつある。ミトコンドリアは分裂・融合を繰り返しながら絶えずダイナミックに動く細胞内小器官であり、極性を有する神経細胞においてミトコンドリア動態制御の破綻は神経変性を引き起こすと考えられる。そこで本研究では神経損傷に応答してミトコンドリアが特異的に蛍光標識されるようなシステムを確立し、損傷神経でのミトコンドリアの動態を明らかにすることを目指す。本年度は損傷神経細胞特異的にミトコンドリアを蛍光標識すると同時に組換え酵素Creリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウスの作製を行った。損傷神経細胞特異的な遺伝子発現制御を再現よく確保するため、神経損傷特異的に発現上昇する転写因子ATF3遺伝子全領域を含むBAC(大腸菌人工染色体)を利用した。ATF3遺伝子開始コドンの位置にIRES(Internal Ribosome Entry Site)をはさんでミトコンドリア移行シグナル付き蛍光蛋白(EGFP)と組み換え酵素Creリコンビナーゼを含む遺伝子断片を挿入しコンストラクトを構築した。この挿入遺伝子断片は培養細胞に遺伝子導入すると期待通り蛍光蛋白とCre蛋白を発現することから、挿入遺伝子断片に問題はないことが明らかになった。しかし作製したBACコンストラクトを受精卵に注入したところ、産仔を得ることはできたもののトランスジーンの挿入が認められなかった。再度同じコンストラクトの受精卵注入を試みたが同様の結果であった。現在コンストラクト構築の一部を変更し3回目の受精卵注入を試みており、早急にトランスジーンを有するマウスを得て次年度の研究計画につなげる予定である。
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