研究課題/領域番号 |
22500314
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
桐生 寿美子 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (70311529)
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キーワード | 神経再生 / ミトコンドリア / ATF3 / 大腸菌人工染色体(BAC) / 神経損傷 / トランスジェニックマウス / 組織特異性 |
研究概要 |
神経再生・修復現象が円滑に進むためには、損傷神経細胞内でオルガネラが適切に移動・配置することが必要である。中でも、エネルギー供給源であるミトコンドリアが細胞内及び軸索内を適切に移動することは極めて重要であると考えられるが、損傷神経におけるミトコンドリアダイナミクスは不明である。そこで損傷神経細胞特異的にミトコンドリアを蛍光標識することができるトランスジェニックマウスの作製を計画した。組織特異性を保つために、神経損傷特異的に発現応答する転写因子ATF3のプロモーター領域を含む大腸菌人工染色体(BAC)を用いてコンストラクトを構築した。昨年度は複数回の受精卵へのインジェクションにもかかわらず全くトランスジェニックマウスを得ることができなかった。しかし今年度コンストラクトの一部を改変し再度受精卵への注入を行った結果、目的のトランスジェニックマウスを得る事が出来た。作製したマウスの神経損傷応答性を確認するため、末梢神経である舌下神経および坐骨神経を切断したところ損傷ニューロンおよび損傷軸索内で蛍光標識されたミトコンドリアが観察された。一方大脳皮質損傷や脊髄損傷などの中枢神経損傷モデルにおいても損傷を受けた大脳皮質、脊髄ニューロンで蛍光標識されたミトコンドリアを確認することが出来た。損傷神経細胞以外の他の脳部位及び他の組織では蛍光標識されたミトコンドリアがほとんど確認されず、極めて組織特異性の高いマウスを得る事ができた。このマウスは損傷神経細胞特異的にミトコンドリアを標識すると同時にCreリコンビナーゼを発現誘導する。このため各種floxマウスと交配することにより、損傷神経細胞でのみ特定遺伝子の発現をON/OFFする事が可能となる。このようなマウスは現在までに報告されておらず今後の研究の有用なツールになると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目的のトランスジェニックマウスを得るまで、昨年度は受精卵へのDNA注入作業を複数回繰り返し予想以上の時間を費やした。このため得られたトランスジェニックマウスのキャラクタライゼーションが今年度にずれこんだ。
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今後の研究の推進方策 |
作製した損傷特異性を有するトランスジェニックマウスを用いて(1)in vitroおよび(2)in vivoでの解析を進める。(1)ではトランスジェニックマウスから調整した初代培養細胞を用い、損傷刺激前後での軸索内ミトコンドリアのライブイメージングを行う。損傷刺激によって誘導されるトランスジェニック由来の蛍光色素と異なる色で予めミトコンドリアを標識することで損傷刺激前後のミトコンドリアを色分けし、ターンオーバーや分裂融合現象を比較検討する。(2)では損傷神経内の蛍光標識ミトコンドリアを時間経過を追って観察し輸送やターンオーバーを組織科学的に詳細に検討する。さらに各種floxマウスとの交配を行い、損傷神経細胞特異的に特定遺伝子のON/OFFが可能であるか確認する。
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