神経再生・修復を円滑に進めるためにはオルガネラが適切に移動・配置することが極めて重要であると考えられる。中でもエネルギー供給源であるミトコンドリアが正常に機能するためにはその動態が細胞内で適切に制御される必要がある。特に神経細胞特有の形態である軸索では、細胞体からミトコンドリアが輸送され細胞体へと回収されるため、そのダイナミクス制御は厳密に行われていると考えられる。本研究では損傷軸索におけるミトコンドリア動態を明らかにするために、損傷神経細胞特異的にミトコンドリアを標識し同時にCreリコンビナーゼを発現するBACトランスジェニックマウスを作製した。作製したBACコンストラクトを受精卵へ注入してもなかなかトランスジェニックマウスを得る事が出来ず予想外の時間が経過したが、平成23年度になりようやく目的のマウスを得る事ができた。得られたマウスの表現系の解析を行ったところ、末梢・中枢神経損傷を受けると損傷神経細胞・軸索特異的にミトコンドリアを蛍光標識できることが明らかになった。そこで、このマウスの末梢神経に損傷を与えたところ、ミトコンドリアが細胞体で断片化し積極的に軸索へ運ばれ再生軸索が形成される頃元の長さに戻ることが明らかになった。これは損傷前より軸索に局在する古いミトコンドリアのターンオーバーや軸索末端へのエネルギー供給のスピードを上昇させ神経再生・修復を促すための適応反応ではないかと考えられた。本研究で作製したマウスはこのようなミトコンドリア研究に加えて広く脳損傷研究に有用なツールになると考えられる。
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