研究概要 |
アルツハイマー病は、認知障害を主症状とする進行性の神経変性疾患である。神経病理学的には、神経原線維変性、老人斑形成、グリオーシス、神経細胞死を特徴とする。この内、老人斑の主要成分であるアミロイドβ蛋白は、アミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein, APP)の段階的酵素切断により産生される。近年、アミロイドβ蛋白産生を抑制する物質として、自然物質由来のフラボノイドとして知られるポリフェノール類を用いた研究に注目が集まっている。 平成22年度は、tannic acid(植物由来のポリフェノール)をアルツハイマー病の病態モデルマウス(PSAPPマウス;APPsw, PSEN1dE9)に経口投与し、認知機能障害とアルツハイマー様病態(脳アミロイド症・グリオーシス)に対する有効性を検討した。胃ゾンデを用いた経口投与は、6ヶ月齢より開始し6ヶ月間行った。Tannic acidの長期経口投与により、PSAPPマウスで観察される過活動、物体認識障害、空間認知機能障害などの行動学的障害が有意に改善した。しかし、tannic acid投与は、正常マウスの認知機能亢進には影響しなかった。さらに、tannic acidを投与したPSAPPマウスでは、脳実質・脳血管のアミロイドβ蛋白沈着および脳内アミロイドβ蛋白レベルが有意に減少した。また、tannic acid投与は、アミロイドβ蛋白沈着周囲に集簇するグリア細胞の反応(グリオーシス)も有意に抑制した。 以上のtannic acidの経口投与による認知機能障害とアルツハイマー様病態の改善・軽減効果のメカニズムを明らかにする研究を平成23年度以降行う予定でいる。
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