研究課題/領域番号 |
22500320
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
森 隆 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (60239605)
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研究分担者 |
山口 晴保 群馬大学, 保健学研究科, 教授 (00158114)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβ蛋白 / フェノール化合物 / 遺伝子改変マウス / 神経科学 / 神経変性疾患 / 神経病理学 |
研究概要 |
【研究背景】アルツハイマー病は、認知障害を主症状とする進行性の神経変性疾患である。神経病理学的には、老人斑形成、神経原線維変性、神経細胞変性・細胞死、シナプス障害、グリオーシスを特徴とする。この内、老人斑の主要構成成分であるアミロイドβ蛋白は、アミロイド前駆体蛋白の段階的酵素切断により産生される。近年、アミロイドβ蛋白の脳内沈着の進行は、蛋白沈着の増加と除去反応の障害により起こると考えられている。今日まで、化学的合成薬の限られた病態軽減効果・有効期間・副作用の可能性のため、安全性がより確保されている自然物由来の新たな物質の探索が待たれている。【目的・方法】本研究では、フェルラ酸(植物種子由来)に着目し、病態モデルマウス(PSAPPマウス:APPsw, PSEN1dE9)に6ヶ月間(6ヶ月齢より開始し12ヶ月齢まで)経口投与し、行動学的障害そして神経病理学的変化の軽減効果を調べた。【結果】フェルラ酸投与により、PSAPPマウスで観察される過活動、物体認識障害、空間認知機能障害などの行動学的障害が有意に改善した。一方、フェルラ酸投与は、正常マウスの認知機能亢進には影響しなかった。さらに、フェルラ酸を投与したPSAPPマウスでは、脳実質・脳血管のアミロイドβ蛋白沈着および脳内アミロイドβ蛋白レベルの有意な減少が観察された。これらの効果は、アミロイド前駆体蛋白の段階的酵素切断への干渉、アミロイドβ蛋白周囲のグリオーシスの軽減、炎症性サイトカイン(IL-1β・TNF-α)のmRNA発現の低下と関連していた。【結論】以上の結果は、フェルラ酸のサプリメントとしての摂取が、アルツハイマー病の治療に有効である可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度において、フェルラ酸のサプリメントとしての摂取により、病態モデルマウスであるPSAPPマウスで観察される過活動、物体認識障害、空間認知機能障害などの行動学的障害が有意に改善した。一方、フェルラ酸投与は、正常マウスの認知機能亢進には影響しなかった。さらに、フェルラ酸を投与したPSAPPマウスでは、脳実質・脳血管のアミロイドβ蛋白沈着および脳内アミロイドβ蛋白レベルの有意な減少が観察された。これらの効果は、アミロイド前駆体蛋白の段階的酵素切断への干渉(特に、β-secretaseの発現・活性の抑制作用)、アミロイドβ蛋白周囲のグリオーシスの軽減、炎症性サイトカイン(IL-1β・TNF-α)のmRNA発現の低下と関連していることを明らかにした。即ち、アルツハイマー病の治療に有効であるとする研究データを集積できた。以上の研究成果をPLoS ONE, 8(2): e55774, 2013.に掲載した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、これまでに有効性を明らかにしてきた食物由来フェノール化合物のコンビネーション投与による認知機能障害とアルツハイマー様病態の改善・軽減効果への相乗効果の研究そして更なる病態メカニズムの解明を行う予定でいる。具体的には、12ヵ月齢のAPPSWE/PS1マウスに3ヵ月間(15ヵ月齢まで)フェルラ酸およびエピガロカテキンギャレート(EGCG)を経口投与し相乗効果を評価する。(1) 行動学的評価:Y-maze test, Object recognition test, Radial arm water maze testの各行動学的試験による評価。(2) 脳内・血漿アミロイド蛋β白量のELISA法による測定。(3) APPから各α-, β-, γ-secretaseの酵素的作用にて切断される各断片、non-amyloidogenic経路の亢進指標として、α-secretaseにより切断されるα-CTF/sAPPαを、amyloidogenic経路の亢進指標としてβ-secretaseにより切断されるβ-CTF/sAPPβをWestern blot法あるいはELISA法で解析・定量。(4) 神経病理組織学的評価。海馬を含む後頭部大脳において、各免疫組織化学的染色を行い以下の項目を評価。1) 脳内の空間的老人斑の出現(総老人斑数、各老人斑の長径解析、老人斑占有率)、神経細胞脱落、アストロサイトの増殖(アストロサイトーシス占有率)、マイクログリアの増殖(マイクログリーオシス占有率)を大脳皮質と海馬領域で評価。2) 1) の評価項目に関して画像解析ソフトを用いて、各項目を定量的に解析。3) オリゴマータイプのアミロイドβ蛋白への影響について特殊OC抗体を用いて解析。
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