研究概要 |
【目的・方法】TDP-43はN末端側RNA結合ドメインとC末端側タンパク結合ドメインを有する核タンパクある。Amyotrophic lateral sclerosis(ALS)脳では、TDP-43が異常リン酸化・ユビキチン化・C末端切断の修飾を受け細胞質へ移行し、封入体を形成している(TDP-43proteinopathy)。しかしTDP-43の生理的な機能は明らかでない。最近Freibaumらは免疫沈降と質量分析により、ヒトTDP-43結合タンパク数百種類を同定した(J Proteome Res 9:1104-20,2010)。Sephtonらは次世代シークエンサーを用いたRIP-seqにより、ラットTDP-43結合RNA(標的遺伝子候補)数千種類を同定した(J Biol Chem 286:1204-1215,2011)。本研究ではこれらの網羅的解析データをKeyMolnet(KM),Ingenuity Pathway Analysis(IPA), KEGG, DAVIDに入力、TDP-43標的遺伝子と結合タンパクの分子ネットワークの生物学的意味付けを行った。【結果】ラットTDP-43標的4163遺伝子ネットワークは、axon guidance, RNA post-transcriptional modification, transcriptional regulation by p53と、ヒトTDP-43結合227タンパクネットワークは、ribosome, spliceosome, protein synthesis, spliceosome assemblyと密接に関連していた。ラットTDP-43標的遺伝子IDをヒトIDに変換し、ヒトでDP-43標的4063遺伝子と227結合タンパクの包括的分子ネットワークを解析すると、ribosome, axon guidance, spliceosome, RNA-binding, RNA post-transcriptional modification, transcriptional regulation by p53との関連性を認めた。【結論】TDP-43は核ではspliceosome(RNA splicing, mRNA processing)と細胞質ではribosome(protein synthesis)と密接にリンクし、神経細胞機能維持を制御していると考えられた(日本薬学会第132年会で発表)。
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今後の研究の推進方策 |
ALSの約10%では家族性に発症し、Cu/Zn superoxide dismutase(SOD1), TAR DNA-binding protein(TDP43), fused in sarcoma(FUS), optineurin(OPTN), ubiquilin 2(UBQLN2),chromosome 9 open readig frame 72(C9orf72)などの遺伝子変異に起因する。欧州ではC9orf72 non-coding regionの6塩基リピート(GGGGCC)の伸長(500-1600コピー)を認める症例が、familial ALS(FALS)の38%を占めている。C9orf72変異によるFALS脳でもTDP-43が蓄積する。しかしながら現在まで、国内外の研究を通じて、C9orf72の生理学的機能(ヒト中枢神経系における分布、細胞内局在、発現制御、結合タンパク質、標的遺伝子など)は、ほとんど解明されていない。今後TDP-43とC9orf72の結合関係に注目して、ALS脳組織や培養運動ニューロンを用いて、解析を進める予定である。
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