研究概要 |
多系統萎縮症(MSA)は遺伝性が明らかでない、難治性の神経変性疾患である。本研究ではMSAのモデル動物・細胞の解析により根本的治療法開発をめざした。2005年MSA患者脳組織を解析しα-synuclein (Syn)が不溶化してグリア細胞や神経細胞に蓄積することを示した(Yazawa et al, Neuron)。病理学的には蓄積蛋白を持つグリア細胞の封入体はglial cytoplasmic inclusion(GCI)と呼ばれ、主としてオリゴデンドロサイトに局在する。そこでオリゴデンドロサイトにヒトSynを強制発現するトランスジェニック(TG)マウスを作製し、GCI形成などのMSAの病理学的特徴を有する疾患モデルとして報告した。TGマウスではGCI形成が神経細胞の変性を誘導し、進行性の運動機能の低下や脳萎縮などの神経変性が観察された。2009年TGマウス脳由来の初代培養細胞により、TGマウス脳神経細胞に蓄積するSynはMSA患者脳では不溶化し、Synと同様に不溶化を起こす蛋白として微小管の構成蛋白であるβIIIチュブリンを同定した(Nakayama et al, Am J Pathol)。微小管の重合阻害剤(ノコダゾール)はSynの不溶化と蓄積を抑制することを明らかにし、2蛋白間の結合がSyn蓄積に関与することを示した。本研究ではin vitroのノコダゾールSyn蓄積の抑制効果をin vivo個体で検証した。さらにTGマウス脳組織をパッチクランプ法により電気生理学的に解析し、抑制性ニューロンの機能障害が神経変性に先立ち起こることを示した。以上結果より、ノコダゾールによるSyn蓄積の阻害が神経細胞の機能障害を回復させることが明らかになった。今後、選択的なSyn 蓄積の抑制方法を検討しヒトへの臨床応用をめざす。
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