研究課題
本研究は、蛋白質合成に依存した情動記憶の固定化、再固定化および消去におけるmicroRNA(以下miRNA)の役割を明らかにすることを目的とする。この目的を達成させるために、平成23年度は恐怖条件づけ後の扁桃体内で発現量の変動するmiRNAをマイクロアレイ解析によって網羅的に検索した。方法:10週令の♂C57BL/6Nマウスを条件づけ群と対照群(10匹/群)に分け、1匹ずつ実験箱に入れ60秒後から10秒間の音刺激(60dBのホワイトノイズ)と床からの電気ショック(0.5mA、音刺激の開始9秒後に1秒間)を20秒間隔で3回提示した。刺激終了の50秒後(実験箱に入れてから180秒後)に動物をホームケージに戻した。対照群には実験箱で音の提示のみ行なった(電気ショックなし)。条件づけの3時間後に頸椎脱臼により屠殺し、速やかに脳出しを行ない、氷上で扁桃体を含む1mm厚の脳スライスを作成し、実体顕微鏡下で扁桃体を切出した。切出した扁桃体を5匹分1組(条件づけ群2組、対照群2組で計4組)とし、それぞれから全RNAを抽出、DNase処理後cDNA合成してアジレント社のマウスmiRNAマイクロアレイ解析を実施した。結果:条件づけした2群と対照の2群間でハイブリダイズのシグナル強度を比較し、対照群に比べ2倍以上あるいは0.5倍以下のシグナル強度を示したmiRNA種を抽出したところ、それぞれの比較で再現良く0.5倍以下(すなわち対照群に比べ半分量以下の発現量)のmiRNAが複数見出された。これらのmiRNAの発現量の低下は標的となるmRNA量を増加させることで、恐怖条件づけ記憶の形成に関わっている可能性がある。
3: やや遅れている
共通設備の恐怖条件づけ装置が新しくなり、条件づけ刺激の条件検討に時間がかかったこと。マイクロアレイ解析用のRNAが調製および保存中に部分的に分解してしまうことがあり、解析するために使用可能な質の高いRNAを用意することが難しかった。主としてこれら2点の理由で現在までの「研究の目的」の達成度は低い。
まず、マイクロアレイの解析結果から同定されたmiRNAの発現量が扁桃体をはじめ、海馬や前頭前野等の脳部位で情動記憶の固定化、再固定化および消去の過程においてどのように変動するかについて、定量的RT-PCR解析で調べる。また、コンピュータ予測プログラムとデータベースの検索を駆使して、miRNAの標的となるmRNA種を予想し、情動記憶との関連でこれらの発現プロファイリングを行なう。最後に、miRNAの脳内過剰発現およびノックダウンをウイルスベクター導入によって実施し、その効果を行動薬理学的に検討する。ウイルスベクターの導入がうまくいかない時には合成miRNAそのものあるいは安定化DNA(locked DNA)で合成したアンチ鎖miRNAをマイクロシリンジポンプを使って脳内に微量注入する方法を検討する。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
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