本研究は、蛋白質合成に依存した情動記憶の固定化、再固定化および消去におけるmiRNAの役割を明らかにすることを目的とする。今年度は昨年度に行った恐怖条件づけ後の扁桃体内で発現量の変動するmiRNAのマイクロアレイの結果を解析し直し見いだされたmiRNAについて海馬での変動を定量解析した。方法:昨年度得られたデータについて条件づけ群と対照群の比較解析を行って、各群間で再現よく変動したmiRNAを選出した。これらについて、個々にそれらの配列データよりPCRプライマーを設計した。10週令の♂C57BL/6Nマウスを実験箱に入れ60秒後から10秒間の音刺激と床からの電気ショック(0.5 mA、音刺激の開始9秒後に1秒間)を20秒間隔で3回提示した。刺激終了の50秒後(実験箱に入れてから180秒後)に動物をホームケージに戻した。対照群には実験箱で音の提示のみ行なった(電気ショックなし)。条件づけの3時間後に頸椎脱臼により屠殺し脳を氷上で1mm厚のスライスにし、RNA保護液で処理後、実体顕微鏡下で海馬を切出した。切り出した組織より全RNAを抽出、DNase処理後MiR-X miRNA qRT-PCRキット(クロンテック社)と定量PCR装置(7500Fast、アプライド)により各miRNAの定量を行った。データ解析はU6 snRNAを内部標準とした比較CT 法によった。結果:マイクロアレイにより条件づけ後に扁桃体で変動するmiRNAとして減少するもの10種を選別した。これらのmiRNAの発現量変化を海馬においてqRT-PCRによって検証したところ、海馬においても3種で再現よく減少することがわかった。そのうちの一種はすでに報告のあるmiR-134であった。残り2種については未報告であるが、これらも標的となるmRNA量を増加させることで、恐怖条件づけ記憶の形成に関わっている可能性がある。
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