本研究は、中枢神経系において記憶・学習などの可塑性や発達障害・統合失調症などの精神疾患と深い関わりを持つ代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)分子を対象に、そのシグナル伝達の分子メカニズムを解明しようとするものである。mGluRは7回膜貫通領域を持つG蛋白共役型受容体であるが、研究代表者らはこれまでに、G蛋白を介した経路とは別にSrc-Tamalin ITAM-Sykというチロシンキナーゼを中心としたシグナル伝達系が存在する事を明らかにしてきており、mGluR分子のC末細胞内領域を介した蛋白相互作用が新たなシグナル伝達系に繋がる可能性を示した。さらにこのような新規シグナル伝達系の解明を行うために、代表研究者が独自に開発した新規スリーハイブリッドベクターシステムを用いて高度な蛋白相互作用のスクリーニングを行い、mGluRのC末細胞内領域と相互作用する新たな蛋白群を見出した。この中には細胞内のリン酸化経路に関わる分子なども含まれており、Src-Tamalin ITAM-Syk系と相互に関連している可能性も考えられるため、さらに解析を進めている。また、mGluRの細胞内局在をコントロールする蛋白領域の解明を進め、受容体を効率よく細胞膜表面へ輸送するために複数の蛋白領域が関わっている事を初めて明らかにした。今後は、新たに同定された相互作用蛋白群と、受容体輸送に関わる蛋白領域が、mGluRの受容体機能調節および神経機能調節にどのように関わっているのか解明を進めていく計画である。
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