本研究の目的であるシナプス伝達制御機構の解明には、シナプス前及び後の機能を総合的に理解する必要がある。研究実施計画に従い、受容体結合蛋白の検索を進め、本年度はシナプス前での新たなシナプス伝達制御機構の発見という成果をあげた。 グループ3のmGluRはシナプス前終末のアクティブゾーンに存在し、受容体が活性化されると伝達物質の放出を抑制する。古典的なリガンド依存性の機構以外にも、例えば、カルモデュリン、munc18-1それとmGluRがダイナミックな複合体を形成し、シナプス可塑性を生起するという新しい機構が研究代表者等により提唱されている。 一方、カルモデュリンが属するEF-handカルシウム結合蛋白はカルシウムセンサーであり、このうち数種はカルシウムチャンネルに結合し、それぞれが特徴的にシナプス可塑性を制御する。 mGluRとカルシウムチャンネルはアクティブゾーンに近接して存在し、機能的にはシナプス小胞放出の制御に収斂する。またEF-handカルシウム結合蛋白は互いに構造が類似する。ところが、EF-handカルシウム結合蛋白でmGluRとの結合が示されているのはカルモデュリンだけである。 そこで、カルシウムチャンネルを制御するEF-handカルシウム結合蛋白がmGluRに結合する可能性を調べ、CaBP1が新たなmGluR結合蛋白であることを発見した。CaBP1はカルシウム/受容体リン酸化依存性にmGluRに結合し、結合部位はカルモデュリンと共通であった。つまり、これまでの知見と合わせ、mGluRとカルシウムチャンネルはカルモデュリンとCaBP1を共に利用し、シナプス前終末において、カルシウムイオン濃度とG蛋白という2つの情報系のレベルでシナプス伝達を精緻に制御する。 mGluRとカルシウムチャンネルは薬物治療の重要な標的であり、本成果は新たな薬物療法開発に貢献する。
|