研究概要 |
RNA結合タンパクTLSは家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)タイプ6の原因遺伝子である。FALSの主病変は運動ニューロンにおける異常タンパクの細胞質内凝集であり,TLS遺伝子の点変異体が発現する場合にもこの細胞内病変が顕著に現われる。そこで本年度は,特にTLS遺伝子点変異体発現による"細胞内輸送"及び"蛋白分解経路"の阻害によるFALSの発症機序を検討することにした。 変異TLS蛋白が細胞内輸送系へ及ぼす影響に関しては,脊髄ニューロンのin vitroモデルであるNSC-34細胞を用いて検討した。家族性ALSタイプ6で報告されているTLSの点変異体[優性遺伝性の521番目のアルギニン残基の変異(R521G)や劣性遺伝性の517番目のヒスチジン残基の変異を持つ変異TLS蛋白(例H517Q)等]のコンストラクトを各種作製し,これらにタグ蛋白(Flag, Myc,およびGFP)を付加してNSC-34細胞に発現させた後,蛍光顕微鏡と生化学的手法を用いてその細胞内局在を解析した。従来の報告どおり,NSC-34細胞においてもR521G, H517QおよびR518Kは,細胞内に凝集しやすい傾向がみられた。またこれらの変異体は,代表的な細胞内輸送蛋白であるダイニンやミオシンVaとも会合した。さらにR521Gは細胞内だけでなく神経突起内でも凝集していたことから,R521GとミオシンVIとの会合についても検討した。複数の抗ミオシンVI抗体を用いて免疫沈降を行ったところ,免疫沈降物中の正常TLSとR521Gは,truncated form(部分的蛋白分解物)として検出され,さらにR521Gはfull lengthの状態でもミオシンVIと会合することがわかった。このことは,R521GがミオシンVIの輸送会合体の阻害剤として機能している可能性を示唆しており,「長期的にR521Gが発現することによって,ミオシンVIを介したオートファゴソームの輸送阻害により蛋白凝集が起こりALSを誘導する」というFALSタイプ6の発症モデルとよく合致する。しかしながら,正常TLSと変異TLSの間でのユビキチン化とオートファジー耐性については,現在までの実験では有意差が認められていない。
|