研究課題/領域番号 |
22500335
|
研究機関 | 広島文教女子大学 |
研究代表者 |
藤井 律子 広島文教女子大学, 人間科学部, 教授 (90342716)
|
キーワード | 脳神経疾患 / 神経科学 |
研究概要 |
"家族性筋萎縮性側索硬化症(以下FALS)タイプ6"の患者のRNA結合タンパクTLS遺伝子上には特異的な点変異が存在する。本研究は、'mRNA-蛋白輸送複合体'の構成蛋白であるRNA結合タンパクTLSに着目し、FALSの発症における「脊髄運動ニューロン変性の分子機構」を解明することを目的とする。 本年度は、主に以下のような結果を得た。 (1)TLSの細胞内蛋白分解ユビキチン-プロテアソーム系あるいはオートファジーにおける役割 TLS点変異体のユビキチン化の状態やオートファゴソームへの取り込みを調べるため、TLS変異体を脊髄運動ニューロン由来細胞に強制発現させたのち、ユビキチン化抗体FK1、およびオートファゴソームマーカー蛋白であるp62と同活性化マーカーLC3に対する抗体を用いて検討した。一時的な変異体発現では、変異体の過剰発現によるTLS蛋白のユビキチン化による顕著なシフト差は見られず、またオートファゴソームの活性化も認められなかった。 (2)脊髄運動ニューロンのショットガンプロテオミクス解析 N末側にFLAGタグを付加した正常TLSのRNA結合領域およびFALS type6特異的な点変異をもつTLS等を発現した脊髄ニューロン培養細胞の蛋白抽出液を、抗FLAG抗体ビーズで免疫沈降し、免疫沈降蛋白会合体の"プロテオミクス解析"を、ナノフロー2D-LC-MS/WSを用いて行った。本プロテオミクスの結果から、細胞内タンパク異常凝集を起こしやすく、また、ALSの発症に関係する変異TLS蛋白(R521G)に、特異的・選択的に会合している蛋白分子をいくつか同定することができた。特にRNAの核-細胞質シャトリングに関与する因子、RNAスプライシングに関与する因子などがTLSの標的たんぱく質として同定されたことは、FALS type6の発症段階初期において、RNA代謝異常やRNA輸送阻害が関与することを強く示唆しており、さらに詳細な検討を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NMDAR1のAlternative splicingに関与する因子とともに、TLSのノックアウト胎児脳ではいくつかのmRNAのスプライシング変異や阻害が起こっていることを明らかにした(論文投稿準備中、3件)。in vivoでの検証が必要だが、共同研究機関先と共に進めている「TLSの点変異をもつALS type6の病態モデルマウスの作製」において、表現型解析までには未だ至っていない。
|
今後の研究の推進方策 |
FALStype6の発症機序中、細胞内凝集体形成のイニシエーション過程では、RNAの核-細胞質シャトリングに関与する因子やRNAスプライシングに関与する因子などの輸送阻害や細胞質内貯留がRNA代謝異常が主要な原因となっている可能性が高いことを示唆する結果が得られた。この結果は、TLS自体が、RNA輸送やRNAスプライシングたんぱく質であることからも妥当であるが、さらにin vivoでの解析が必要であることは否めない。TLS点変異体を発現する本疾患の病態モデルマウスの発現型解析には、今後さらに1~2年を要すると考えられ、時間的なネックとなっている。FALS type6の発症段階におけるRNA代謝異常やRNA輸送阻害が関与については、FALS type6の罹患者のiPS細胞を用いた解析も検討中である。
|