研究概要 |
本研究は‘mRNA-蛋白輸送複合体’の構成蛋白であるTLSの機能に着目し、家族性萎縮性側索硬化症(FALS)タイプ6の発症における『脊髄運動ニューロン変性の分子機構』を明らかにしようとするものである。本研究の最終年度にあたる平成24年度は、以下のような結果が得られた。 (1)“TLSノックアウトマウスの大脳皮質では高Ca2+透過性を呈するNR1スプライスバリアントNR1-4の発現量が上昇すること”を見出した。(藤井ら、2012)。一方、NR2サブユニットのスプライスバリアントのmRNA発現量は、TLSノックアウトマウス脳では減少していた。この結果は “TLSが神経活動依存的にNR1スプライスバリアントmRNAの発現を制御することによってNMDARからのCa2+透過量を調節して神経細胞のCa2+恒常性を維持している”ことを示唆しており、TLSが細胞毒性を誘発する蛋白質の発現を転写物が翻訳される過程で選択的に制御する一例と考えている。 (2)TLSノックアウトマウス脳のiCLIP解析により、TLSに特異的に結合するRNAの詳細なプロファイルを得た(Rogeljら、2012)。TLSの特異的標的RNAには、ミトコンドリアの機能活性に関わるものもあり、TLSがストレス応答によるたんぱく質分解経路に関係している可能性が示唆された。 (3)TLS蛋白会合体のプロテオミクス解析から、TLSのRNA結合領域は、TLSの凝集体形成を抑制することで知られるNucleolin(Nucleoporin, Nup107)とも会合することを明らかにした(藤井ら、2012)。実際に、TLSノックアウトマウス由来の神経細胞ではNucleolinの顕著な細胞質内局在変化がみられた。
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