研究課題
活性酸素種(ROS)は、これまで毒性物質であると考えられてきたが、近年、ROSが単なる毒性因子ではなく生理的なシグナル伝達物質であることが明らかとなってきた。一酸化窒素合成酵素(NOS)は、生体内多機能分子である一酸化窒素(NO)を合成するだけでなく、活性酸素種(ROS)も産生する。しかしNOSが産生するROSとNOとのクロストークを含めたシグナル伝達機構、生理・病理的作用については不明な点が多い。本研究では、神経系NOS(nNOS)由来NO-ROSのシグナル伝達機構、生理・病理的作用について解析することを目的としている。本申請では、申請者らが報告したnNOSスプライシング変異体、新規情報伝達物質8-ニトログアノシン環状1リン酸(8-ニトロcGMP)に注目して解析した。NO産生能が同じで、ROS産生能が異なるnNOSスプライシング変異体を恒常的に発現させた細胞を用い、種々の刺激で細胞内でのnNOSに依存したROS産生、NO-ROSシグナル下流分子である8-ニトロcGMPの産生を確認した。ROS産生、8-ニトロcGMP産生は、NOS阻害剤、ROS消去剤で抑制された。さらに初代培養神経細胞でも同様の実験を行い、nNOSに依存したROS産生、8-ニトロcGMP産生を確認した。また8-ニトロcGMPを検出するため抽出方法、質量分析法、蛍光免疫染色法などを詳細に条件検討し、8-ニトロcGMP産生機構、生理作用などについて解析した。これまでに神経系における8-ニトロcGMPによる細胞情報伝達機構に関しての知見は無く、本研究での成果は、基礎生物学的に重要であるだけでなく、脳梗塞、パーキンソン病、アルツハイマー病などの様々な病態の解明と抗酸化的な予防対策・治療戦略を確立する上でも重要であり、その統合的理解は、基礎生物学、医学生物学を含めた生命科学の幅広い分野における学術展開に資するものである。
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