抗うつ薬・抗不安薬として用いられる選択的セロトニン再取込阻害薬の一種、フルオキセチンを成体マウスに慢性投与することによって、ホームケージにおける活動量の顕著な不安定化が生じることを発見した。マウスは過活動と低活動を繰り返す等の変化を示し、この変化はフルオキセチンを断薬後少なくとも1ヵ月間は持続した。また同時に、オープンフィールド、明暗箱における不安様行動の亢進と強制水泳、尾懸垂におけるうつ関連行動の変化も見られた。フルオキセチンは成体海馬歯状回の成熟神経細胞を成熟前の状態に戻すこと(脱成熟)を先に報告しているが、この脱成熟によって生じる神経伝達の変化は行動の不安定化と有意に相関し、また行動変化と同様に断薬後1ヵ月間は持続した。さらに、脱成熟が抑制されているセロトニン5-HT4受容体欠損マウスでは、行動の不安定化と不安様行動の亢進が抑制されていたが、うつ関連行動には変化がなかった。これらの結果はフルオキセチンによる行動の不安定化と不安様行動の亢進の神経基盤に海馬歯状回の脱成熟が関与すること、その際セロトニン5-HT4受容体が重要な役割を果たことを示唆している。これらの行動変化は躁転や気分不安定化などの抗うつ薬の副作用に関連する可能性があり、本発見はこれら副作用のメカニズム解明に結びつくことが期待される。同様の行動変化と海馬神経系の変化が電気けいれん刺激など他の処置や刺激によって生じる可能性を現在検討しており、予備的結果を得ている。
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